キノトライブ・クラッシクス!

KINO CLASSICS!

 

俗にいう「古い映画」などこの世に存在しない。なぜなら映画は上映され観客の目に触れているとき、それは常に「現在」なのだから。

一方、映画の起源に目を向けてみよう。リュミエール、メリエス、グリフィス、ラング、ムルナウ、ヒッチコック、フォード、マキノ、伊藤大輔、etc.

映画は生まれ落ちた時から無声映画時代には、すでにほぼ完成形に達していたと言ってよい。発達も進化もしていない。つまり二つの意味において映画に「歴史」は存在しない。それゆえ、いまだ誕生すらしていない映画は決して死ぬこともないのだ。 

『サンライズ』

1927年/16㎜/モノクロ/無声/95分/アメリカ

監督:F・W・ムルナウ/脚本:カール・マイヤー/製作:ウィリアム・フォックス/原作:ヘアマン・ズーダーマン/撮影:チャールズ・ロシャー、カール・ストルス

出演:ジョージ・オブライエン、ジャネット・ゲイナー、マーガレット・リヴィングストン、ボディル・ローシング、J・ファレル・マクドナルド、ラルフ・シッパーリー

都会から来た女に誘惑され、妻を殺しかけた田舎暮らしの男が、都会に逃げた妻を負って夫婦の絆を取り戻すという、今もって普遍的な、ともすれば通俗的ともいえる物語を、圧倒的な演出により神話的領域にまで表現。まごうことなきサイレント映画の金字塔である。

F・W・ムルナウは1888年12月28日はドイツ・ビーレフェルトにて出生。ハイデルベルク大学で美術史を学び、第一次世界大戦中はパイロットとして従軍。映画黄金時代のドイツで活動をはじめ、『最後の人』『ファウスト』等で名声を確立。芸術映画の製作という野心を抱いたプロデューサー、ウィリアム・フォックスの招きに応じて渡米し、破格の大作である『サンライズ』を監督した。ドキュメンタリー映画作家ロバート・フラハティと共同で『タブウ』を完成させた直後の1931年3月11日交通事故により42歳で死去。『サンライズ』製作当時、ムルナウはまだ30代後半であった。

※本企画では、完全無声、日本語字幕無しでの上映となります。ご了承ください。

 

『カメラを持った男』

1929年/16㎜/モノクロ/無声/75分/ソビエト

監督:ジガ・ヴェルトフ/撮影:ミハイル・カウフマン

当時33歳の若き映画作家ジガ・ヴェルトフによる、ロシア革命の熱気冷めやらぬソ連社会の発展を、ありとあらゆる角度・方法で捉えた実験的ドキュメンタリーの傑作。プロパガンダ映画を装いつつ、ヴェルトフが提唱したカメラが記録する映画的真実〈キノ・プラウダ〉によって、その「発展」は労働とシステムによって下支えされていることも浮き彫りにされる。ヴェルトフは『カメラを持った男』により世界的名声を得ることとなったが、その後、ソ連政府からは形式主義的との批判を受け映画製作の機会を奪われた。1970年代商業映画から離れたジャン=リュック・ゴダールがジャン=ピエール・ゴランらと結成した映画製作グループ「ジガ・ヴェルトフ集団」の名称の由来となったことは有名である。映像がますます氾濫する現代こそ、人間の視覚を拡張する映画眼〈キノ・キ〉による映画的真実〈キノ・プラウダ〉の重要性を説き、映画の可能性を広げることを追求したジガ・ヴェルトフに連帯を示す時なのかもしれない。

※本企画では、完全無声、日本語字幕無しでの上映となります。ご了承ください。

 

『御誂次郎吉格子』

1931年/16㎜/モノクロ/無声/79分(現存版)/日本

監督・脚本:伊藤大輔/原作:吉川英治/撮影・編集:唐澤弘光

出演:大河内傳次郎、伏見直江、伏見信子

富める者から奪い、貧しい者に与える義賊が一匹!鼠小僧次郎吉が江戸を騒がせる。無数の御用提灯が闇に浮び、彼を追い詰める!伊藤大輔……金融恐慌の頃、現代劇では検閲必至のテロリズムとニヒリズムを時代劇に込め、わずか29歳で「日本映画に最初の人間的息吹を与えた」と評される『忠次旅日記』三部作を撮ってしまった反逆児!しかし当時のフィルムは消耗品。彼のこの時期の作品はどれも完全な形を遺していない……だが1976年、奇跡的に本作の全篇に近い個人蔵フィルムが発見された。『忠次』のトリオが再結集!唐沢弘光が撮影技巧生かし、主演の大河内傳次郎が跳び、33歳になった伊藤大輔が情念込め描く!劇場で「映画が若かった頃」の若き熱情に触れずにいられるか!?

※本企画では、完全無声での上映となります。ご了承ください。

 

『春秋一刀流』

1939年/16㎜/モノクロ/74分/日本

監督・脚本・原作:丸根賛太郎/助監督:安田公義/撮影:谷本精史/録音:佐々木稔郎

出演:片岡千恵蔵、沢村国太郎、原健作、志村喬、轟夕起子

マレーネ・ディートリッヒをモジった監督ネームともいわれる、当時、25歳の丸根賛太郎鮮烈のデビュー作。本作の公開からほどなくして時代は太平洋戦争に突入するが、山中貞雄や伊丹万作らが生み出したユーモア溢れる「マゲをつけた現代劇」テイストが見事に継承されている。天気のいい日に血の雨が降る激しい戦を、加勢してお互いを斬り合うはずの用心棒二人(片岡千恵蔵と原健作)が丘の上でサボタージュ、笑い合う冒頭から作品世界に引き込まれること間違いなし!

 

『三里塚 辺田部落』

1973年/16㎜/モノクロ/146分/日本

監督:小川紳介/撮影:田村正毅、川上晧市/録音:久保田幸雄

一連の成田闘争を通過したのちに制作されたいわゆる「三里塚シリーズ」の到達点で最高傑作との呼び声も高い記録映画。『日本解放戦線・三里塚の夏』に見られたような、機動隊との激しいスペクタクル溢れる闘争は描かれないが、三里塚の農民の生活や日常を通して、いわば「見えない闘争」を描き、見事に成功している。もともと三里塚闘争の現地レポ型映画(運動の映画)であった小川プロの作品が真に「映画」になった転換点であり、日本ドキュメンタリー映画史の中でも飛び抜けた破壊力を持つ必見作。小川プロ=小川紳介が実践し続けた、土地に根付いた集団制作体制、自主制作・自主上映を基本スタイルとして、日本の「農民の魂」を伝えようとする試みは、今は形を変え、山崎樹一郎らの劇映画において引き継がれようとしている。これは現代のインディペンデント映画における活動の一つの指針となるだろう。